山口市教育委員会 + YCAM
共同プロジェクト
Yamaguchi City
Board of Education + YCAM
collaborative project

生雲の360°図鑑

IKUMO ELEMENTARY SCHOOL - 2021

生雲の360°図鑑について

タブレット端末を活用した 「地域学習」のアップデート

撮影:塩見浩介

山口市立生雲小学校の児童たちが、自分達の住む地域のことを調べ、聞き、記した360°ぐるっと見渡せるウェブ図鑑です。これまで生雲小学校で生活科や社会科などの授業で実施されている地域学習を発展させ、ウェブ上で閲覧可能な地域図鑑を児童たちと制作しました。360°パノラマの風景を見渡すことによって、子どもたちの気づきや興味を引き出し、地域学習の授業をより発展させることが出来ます。

自分の視点に「ピン」を立て、 「コメント」で気づきや発見を共有する

360°図鑑では、自分の気づきや発見などの「視点」にピンを立て、コメントを書き込むことができます。テキストによるコメントに加え、タブレット端末で撮影した写真や動画をクラウドストレージ経由で表示することもできます。360°図鑑はウェブ上で動作し、他の児童が書き込んだコメントがリアルタイムで反映されます。

山口市教育委員会 + YCAM 共同プロジェクト

​​YCAMは2003年の開館以来、メディア・テクノロジーを用いた 新しい表現と鑑賞者をつなぐため、研究開発プロジェクトや作品制作の過程で得たテクニックや知見、開発したソフトウェア /ハードウェアなどを応用して、教育プログラムを多数開発/ 実施してきました。2016年からはこうした取り組みを、新たな教育モデルとして持続的に展開し、世界へ発信できるよう「未来の山口の授業」という枠組みで実施しています。

2021年度は、山口市教育委員会がYCAMと推進する先進教育プロジェクト「やまぐち子ども未来型学習プロジェクト」として、「未来の山口の授業 at School 2021」を実施。文部科学省の 「GIGAスクール構想」などの影響で急速に進む教育現場のICT 化に対応した授業開発を、教員とYCAM、そして山口市の小学校でプログラミング教育の普及に貢献してきたファブラボ山口とともに取り組んでいきます。

生雲小学校について

JR山口線三谷駅より萩方面へ約6kmの所にある生雲小学校は、1873年7月に創立されました。旧阿東町が2010年に山口市へ編入したことで、現在の山口市立生雲小学校となり、2023年度に150周年を迎える伝統ある小学校です。

生雲の360°図鑑ができるまで

STEP1 授業の構想・360°図鑑のシステム開発 2021年4月〜

学校の教員との協議は、タブレット端末を活用した授業案の構想から始まりました。児童の学年ごとの発達過程や、どの学校でも取り組める汎用性などを踏まえて構想を練った結果、全学年が取り組む「地域学習」に焦点をあてた授業開発に決定しました。その後も協議を重ね、YCAMが過去に開発したバイオテクノロジーをテーマにしたワークショップ「森のDNA図鑑」の図鑑づくりの知見を応用した、地域の「360°図鑑」を制作することになりました。児童自身が「360°図鑑」を制作するためのソフトウェアを使用し、自分が住んでいる地域の特徴を捉えられるようになること、情報をわかりやすく発信・伝達する表現力を磨くこと、プログラミング的思考力を身につけることことなどを目的に授業を設計していきました。

撮影:塩見浩介

STEP2 フィールドワーク・撮影(ドローン空撮・360°撮影) 2021年9月

各学年で調査対象を決定し、1・2年生は生雲地域の商店街、交番、福祉施設や郵便局など、3・4年生は地域の伝統文化である生雲八幡宮のお祭りや巫女舞、生雲地域の産業である和牛生産や米作りなど、6年生は地域の歴史的な文化財である常徳寺庭園に焦点を当てることになりました。その後、360°図鑑で使用する各対象地の背景素材のパノラマ動画の撮影をドローン空撮や全天球カメラを用いて行い、各調査対象地で働く方々や地域の方々にインタビューや調べ学習を行いました。インタビューを行う際にタブレット端末でメモを取り、写真や動画を撮影するなど、ICT機器を活用し、学習に生かしました。

下記、フィールドワークと撮影を行った場所の紹介です。

小学校上空から空撮

山口市北部、阿東地域の山あいにある生雲(いくも)地区。街の中心には阿武川の支流、生雲川が流れます。かつて萩城下から岩国方面を結ぶ山代街道が通り、山口と島根方面を結ぶ石州街道にも近い交通の要衝でした。

常徳寺庭園
近世初頭につくられた池泉鑑賞式庭園。優れた作庭が評価され平成12年12月27日に国指定名勝となりました。雪舟が作庭したとする江戸時代の伝承記録もあります。
生雲八幡宮

1349年、南北朝時代に建立され、八幡様をはじめ主祭神6、配祀神9柱の神様がお祀りされている生雲八幡宮。10月に行われる秋季大例祭では、巫女舞や山口市の無形民俗文化財にも指定されている奴道中などが行われています。

あとう和牛牛舎

あとう和牛とは、山口市阿東地域内で肥育販売されている黒毛和牛のうち、飼育法やランクなど定められた条件をクリアした牛にのみ付けられるブランド名です。肥育牛約300頭が、あとう和牛振興センターを中心に地域の農家で肥育されており、道の駅 長門峡で販売されています。

撮影:塩見浩介

STEP3 児童らによる360°図鑑への書き込み 2021年10月

児童たちへソフトウェアの使用方法の紹介と自分のタブレット端末上で操作体験するレクチャーを行いました。その後、各教員の指導のもと、これまで調べ学習で作成した調査対象地のインタビューやコメント、写真などを図鑑に登録する行程に移りました。生雲小学校の教員らと共に、従来行っていた「地域学習」の授業形式に加え、タブレット端末特有の学びを多く取り入れました。オンライン上でお互いの気づきや発見等を伝え合い、図鑑に反映するグループワークの体験、見出しや文章の書き方に注目し、どのような表現をすればたくさんの人に魅力を伝え、興味を持ってもらえるかというコミュニケーション力、そして児童たちが伝えたいことを整理し、まとめ、発表することで得られる表現力の育成を意識しました。

学習を進めていく中で、低学年はタイピングやタブレット端末自体を操作することに慣れておらず、授業時間内に図鑑を完成させることが難しいことなど、様々な改善点が上がってきました。このような児童や教員のフィードバックをもとにソフトウェアの開発や授業案のブラッシュアップを行いました。

撮影:塩見浩介

STEP4 学習発表会 2021年11月

生雲小学校で例年11月に行われる学習発表会にて、保護者の方々や図鑑の制作にかかわって頂いた地域の方々に向けて、ソフトウェアを活用した授業の学習成果の発表を行いました。各学級ごとに調べたことやインタビューしたこと、図鑑を作るときに工夫したことなどをまとめたパワーポイントを制作し、電子黒板のタッチスクリーン機能を活用してソフトウェアを画面内で動かしながらプレゼンテーションを行いました。

撮影:塩見浩介

STEP5 ウェブサイトの公開、今後の展開 2022年1月

2021年度の生雲小学校での一連の取り組みをまとめ、ウェブ図鑑を一般公開しました。ウェブサイトの一般公開にあたり、画像引用のルールやインタビューを受けてくださった方々への事前確認など情報社会におけるデータの扱い方を児童たちが学ぶ機会にもなりました。2022年度も本プロジェクトは継続し、山口市内の取り組み校を増やしていきます。今後もモデル校の教員、児童たちのフィードバックを得ながら360°図鑑のアップデートと実施を進めていきます。

クレジット

企画・制作

生雲小学校の児童・教員

やまぐち子ども未来型学習プロジェクトチーム(山口市教育委員会)

菅沼聖、天野原(山口情報芸術センター[YCAM])

河口隆、冨川裕美子(ファブラボ山口/アワセルブス)

広報
蛭間友里恵(山口情報芸術センター[YCAM])
ドキュメンテーション

渡邉朋也(山口情報芸術センター[YCAM])

ドローン空撮

白澤 哲浩(Haro工房)

記録撮影/全天球撮影

塩見浩介

図鑑ウェブ制作

KARAPPO Inc.

制作サポート

津間啓語

協力

河﨑 萌(山口市文化財保護課)、生雲の方々

主催:山口市、山口市教育委員会、公益財団法人山口市文化振興財団

共同開発:YCAM InterLab

企画制作:山口情報芸術センター[YCAM]、山口市教育委員会、ファブラボ山口

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